二人暮らし/61〜70㎡
埼玉県郊外のマンションをリノベーションしてお住まいの茂内様ご夫婦。奥様はワインに精通しておられ、エコデコ主催の「暮らしとつながるワークショップ」で、ワインセミナーの講師を勤めていただいたこともあります。一方のご主人の趣味は「食」。食べ歩きがお好きで、毎日自作のお弁当をInstagramに投稿されている料理好きでもあります。おいしいテーブルを囲むことが大好きなお二人は、どんなこだわりを持ってリノベーションをされたのか。日々の暮らしの様子と合わせて伺いました。
▷玄関から廊下を抜け、青い扉の先には明るく開放的なリビングダイニングが広がります。扉はご主人のリクエストだったそう。
奥様:リビングと廊下を仕切るブルーの扉は夫がこだわったもので、この家の中で彼のいちばんのお気に入りです。設計担当の小林さんが、別の施主さんのもとで不要になった古い扉があることを教えてくださり、それをありがたく譲り受けました。古くても頑丈なつくりをしていましたので、木の色を塗り替え、ガラスを新しいものに交換したら、シンプルで美しい扉に甦りました。長年使われてきたものをこの家で受け継ぐことができるなんて、本当にうれしいと思いました。北欧や日本の古い家具を使っていた私たちの生活を見て、他の家で不要になった部材をリノベーションに使いませんか、と提案してくださった小林さんのセンスにも感心しました。
ご主人:玄関から家の中に入った瞬間、まず、白壁に鮮やかに映えるブルーの扉が目に飛び込んできたらかっこいいなあと思ったんです。“白壁にブルー”というそのイメージだけ小林さんに伝えて、ブルーの色味の選択はお任せしました。素人が色見本を見てたくさんあるバリエーションの中から好みの青を選ぼうとすると必要以上に迷うし、かえってイメージとは違うものに出来上がる可能性が高いと思ったから。その考えは正解でしたね! 自分のイメージにぴったりのブルーの扉が出来上がってきました。私から色にまで踏み込んだ具体的なリクエストをしたのはその扉くらいです。ただ最初の打ち合わせで、私たちのライフスタイルや、それぞれが生活で大事にしていることはかなり詳しくお伝えしました。その上で、妻には一人で過ごせる書斎を、私は料理が好きなので機能的なキッチンとくつろげるリビングを作ってほしいとお願いしました。
奥様:私はこれまでずっと雑誌編集の仕事をしていたこともあって、静かに本を読んだり、書き物をしたりする時間を大切にしているのでどうしても書斎がほしくて。実は、結婚してすぐの頃に「お互いになくてはならないものって何だろう」と話し合ったことがあったんです。夫は食に対するお金は惜しまずきっぷのいい人。独身時代は驚くほど安い家賃の家に住んでいたにもかかわらず、友人と銀座の高級なお寿司屋さんやミシュランの三つ星レストランに行ったりしていたくらいなんです。
ご主人:ただただおいしいものが好きで。毎月あっというまにお金がなくなるので自炊するようになったのが料理を始めたきっかけでもあります(笑)。
奥様:一緒に飲みに出かけることも楽しみではあるんですが、あまりに頻繁だと家でゆっくりと過ごす時間が持てなくなってしまい、それが辛くて、正直に夫にそのことを伝えました。
ご主人:お互いにお酒も外食も好きなんですが、楽しみ方が違うんだと気づかされましたね。そういうこともあって、リノベーションをするなら何はなくとも彼女には彼女の城が必要だと私は思っていました。
▷奥様が趣味で集めているアート作品が映えるようにと天井近くに照明を設置。壁も補強をしています。
ーそれぞれの「好き」を尊重していらっしゃるんですね。キッチンはどんなこだわりがありましたか?
奥様:小林さんがいくつかプランを出してくださって、夫はその中のひとつに即決でした。リビングダイニングとキッチンがゆるやかにつながりつつも、リビング側からキッチンの中の家電製品は見えなかったり、キッチンはカウンターのある対面式だったり、夫のリクエストが反映されているプランでした。
ご主人:この設計プランをパッと見た瞬間、いいなと思いました。他のプランがもう目に入らなくなったくらい(笑)。あとは家中に調理中のニオイが回らないよう廊下との間に扉をつけてほしいとリクエストをして、あの青い扉をつけてもらいました。システムキッチンそのものに関しては、予算の関係で最初に希望したものよりだいぶ価格を抑えたものに変更せざるを得なくなったのですが、結果的にはシンプルなシステムキッチンで十分でした。
▷スタンダードトレードで購入したダイニングテーブルは、ここに引っ越して一番大きな買い物だったそうです。来客時にもゆったりと座れるところがお気に入り。
奥様:すべての部屋に窓があるので、青い扉を開けると家全体に風が通って気持ちがいい。青の扉とトイレの扉以外は引き戸にしたんですが、これは掃除がしやすくてよかったです。キッチンでは夫が料理をしている間、私がワインを開けて、料理をしている夫とカウンター越しに会話しながら晩酌をすることもよくあります。今は私が仕事を辞めて家にいるので逆転。平日の夜は私が作って、夫がスツールに座ってTVを見ながらお酒を飲んでいます。
ご主人:休日は私がブランチを作って、夕方には散歩がてら近所に買い出しに出かけ、二人で夕食を作ることが多いですね。外食することになれば、すぐに着替えて準備しますが(笑)。
▷キッチンのタイルはご主人中心にDIYされました。ここまでの広さを貼るのは手間も時間もかかり大変なこと。茂内さまの器用さのなせる技です。
奥様:夫は料理も好きなんですが、その100倍くらい外食が好きなんです。だから夕飯は外で食べようとなるとわかりやすくうれしそう。その時の出かける準備は早いよね(笑)。
ご主人:雑誌や料理番組のレシピを見て作ることもありますが、それよりも「あのお店で美味しかった料理を再現したい」「あの盛り付けを真似したい」というのが料理をする理由なんですよ。
奥様:私は新聞に載っているレシピを切り抜いてカードにしています。書斎にカードボックスを置いてあって、その日食べたい料理のカードを抜いて、そこに載っている食材を買いに行きます。ネットでレシピを探すよりも一覧性があるので私には便利ですね。
ー新聞のレシピをこんな風に集めていらっしゃるのは初めて見ました。編集者さんならではの方法に思えます。書斎ではどんな風に過ごしていますか?
▷奥様の書斎。所狭しと資料が置かれたデスク周りはさながらコックピット。活字に囲まれる奥様の姿が凛々しくて素敵でした。
奥様:今はワインの調べ物をしていることが多いです。ワインスクールで学んだことの復習をしたり、飲んだワインの感想をメモしたり。将来お店を開きたいと思っているのでそのための勉強ですね。
ご主人:本棚を備え付けにしてもらったのはよかったよね。
奥様:造作の家具はこれとキッチンのカウンターくらいかな。家具はほとんど前の家から持ってきました。私は北欧家具が好きで、下北沢のナンセンスというユーズドのショップで買った家具が多いです。照明、ソファ、ダイニングチェアなどはナンセンスで買いました。
▷造作の書架はガチャレールで自由に高さを調節可能。「文庫や単行本の高さに合わせて組み立てるのに意外と苦心したよね」と笑いながら振り返っていらっしゃいました。
ー お仕事では旅雑誌もを手がけていたそうですが、ワインに興味をもつきっかけはそこにあったんですか?
奥様:旅雑誌の編集をしていた頃は3ヶ月に一度は海外取材に出ていて、いろいろな土地でワイナリーを見る機会もありました。なだらかなぶどう畑がずっと続いて、おいしいワインや食事を楽しむ人たちがいて。その風景がずっと心に残っているので、確かに興味を抱く最初のきっかけはそこかなあと思います。パリのビストロ特集を担当した時に「もっとワインのことを知りたい」と思ったのも、ワインの勉強を始めた理由ではあります。
ご主人:妻が落希一郎さんの『僕がワイナリーをつくった理由』という本に感銘を受けて、新潟にある落さんのワイナリーへ旅行もしました。醸造施設だけでなく、温泉も食堂も宿泊施設もあって、ヨーロッパのワイナリーみたいでよかったですよ。そういえば、新潟から帰った直後は、実家の茨城でワイナリーを作るって言ってたよね。
奥様:そうそう!でもそれは相当キツいぞと気づき、お店を出すという現実的なところに落ち着きました(笑)。
ご主人:何か反対しても彼女の意思は変わらないと思っているので見守っています。何度でもやり直しはできますからね。お店は彼女一人でやるので、僕が顧客になる可能性はあるかな(笑)。
奥様:二人の間だけでお金が回ってたりして(笑)。二足の草鞋を履けるタイプではないので、ここへの引っ越しが落ち着いた頃に出版社を退社しました。そうやって自分を追い込んでいます。
ーどんなお店を計画されているのでしょうか?
奥様:スナックみたいなワインバーをやりたいですね。とはいえ、これまでに飲食業で働いたことがないので、今はソムリエのいるレストランでアルバイト中です。実は30歳の頃から通っていた下北沢の「いそっぷ」という店が私の理想なんです。残念ながらその店はなくなってしまいましたが、私がワインにハマったのは、そこのママの影響です。
ーそのお店はスナックなんですか?
奥様:私が通い始めた頃はスナックでしたが、もともとは純喫茶から始まったと聞いています。というのも、ママが非常に聡明な女性で、時代に合わせてお店の形態を変遷させることで、入れ替わりの激しい下北沢で46年もお店を営業されていたんです。スナックだった頃は、ご主人が必ずカウンターの奥の席に座っていて、ご主人の学生時代の友人がお客として来る、どこか昭和の飲み屋のような雰囲気のお店。ところが、数年前にご主人が亡くなって…。当時ママは還暦を過ぎていましたが「これからは、働くシングル女性のための店にするわ!」と一念発起されて、女性が一人でも立ち寄れるワインのお店へと変えたんです。
▷調理中にまったくキッチンが散らからないご主人の手際の良さに取材陣一同びっくり!「作りながら洗い物もするんです」とおっしゃっていましたが、水はねもほとんどなく終始ピカピカでした。
ーすごいバイタリティをお持ちの女性ですね!
ご主人:ママさんの存在があったからこそ、目標ができたよね。ママさんと同じワインスクールに通って、ワインエキスパートの資格も取って、今はお店の開店準備のために料理教室にも通っているんですよ。自宅でも習ったレシピを忠実に再現して出してくれることもあります。
奥様:教室の先生も、お料理入門コースの私が、近い将来自分でお店を開こうとしているとは思っていないでしょうね(笑)
ーご主人が奥様の夢を温かく見守っていらっしゃるのがまた素敵です。
▷お家のそこかしこにお花が生けられています。お花を買ってくるのはご主人、それを生けるのは奥様の役割。
ーお部屋の中にはたくさんアート作品がありますが、こちらも奥様のご趣味ですか?
奥様:そうですね。正規の美術教育を受けていない人の作品を指す「アウトサイダーアート」と言われる分野の作品が多いです。私は彼らがやむにやまれぬ衝動で描いているところにどうしても惹かれるんです。ダイニングに飾っている刺繍の作品は、仕事でサンフランシスコへ行った時にモダンアートのギャラリーで買いました。買うことで初めて、アートが自分の人生の一部になるのがうれしくて、仕事を通じて出会った作品を買うことも多いです。大学を卒業したての20代の頃、初めてロングインタビューをした相手は写真家のアラーキーでした。自分にとってすごくやりがいのある仕事だったので、その時個展を開催していたギャラリーのオーナーに「記念に1枚買いたいです」とお願いして、枯れた花の写真を分割払いで買いました。毎月ギャラリーに2万円ずつ支払いに通っていたんですよ(笑)。懐かしいな。それが最初に買ったアート作品ですね。
ー思い出深い1枚なんですね。
ご主人:設計の段階で、どの壁に絵を飾りたいかということは小林さんに伝えていたよね。だいたいの点数も。だから絵を飾る予定の壁は、裏側から補強をしてもらったね。
奥様:そう。何か所か補強をしてもらってよかった。これからも増えるかもしれないし(笑)。
ーお部屋を見渡すとたくさんアートもあるのに、すっきりと片付いていらっしゃいます。モノを買う時のルールはありますか?
▷撮影も終盤に差し掛かった頃、まずは乾杯にと自然派のシードルを開けてくださいました。奥様のワイン談義はわかりやすくて面白く、1杯ごとにおいしさが深まっていきます。
奥様:とくにルールというのはないです。自分がその時に興味のあるモノばかり買ってしまうので、今はワインとキッチン道具が多いです。夫はモノをほとんど買わない人なので、キッチン道具も私が買ってきたものを使いこなしています。
ーお酒のセレクトも奥様ですか?
奥様:はい。ただ、夫も食への関心が高い人なので、一緒に飲んでいるうちにどんどん詳しくなっています。夫の最近の趣味は園芸ですね。ここに引っ越してからベランダでいろいろと育てるようになって。バラがほしいなって私がリクエストしたので、今は熱心にバラを育てています。この前は赤唐辛子も実ったんですよ。
ー引っ越しをして新しい趣味ができたと聞くのは私たちもうれしい限りです。さて、撮影をしながらも、ダイニングにはご主人の作るお料理のいい香りが立ち込めてきました。撮影も終盤。「そろそろ喉が渇きませんか」という奥様の一言で、パーティの準備がはじまりました。お二人の食事シーンを撮影したら、お言葉に甘えて私たちも乾杯させていただきましょう。
今日は1日ありがとうございました。
▷彩り豊かな焼き野菜のサラダや、とうもろこしの冷製スープ、ラタトゥイユ……。夏野菜たっぷりのヘルシーメニューが並びます。ふだんから野菜や鶏料理が多いので白ワインを飲むことが多いそう。
撮影後、ご主人の手料理と、奥様セレクトのワインで食卓を囲むというぜいたくな時間をご一緒させていただいた今回の取材。お二人のお話を伺っていると、食へのアプローチはそれぞれに異なるものの、おいしい時間を通して縁がつながり、深まることをとても大事にされているんだなと感じました。奥様がお店をオープンされた暁には、おいしいワインと楽しいおしゃべりを目当てにぜひお邪魔したいと思います。
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