二人暮らし/40〜60㎡
美大の同級生だったF様ご夫妻は、都心の築50年近いマンションを購入されフルリノベをされました。自宅にはおふたりの作品も多数。それゆえ作品づくりやDIYも楽しめるようにと、玄関からLDKまでを全面フラットにしモルタルを打っています。スケッチや図解でイメージを設計士に伝えたり、あちこちをDIYされたりと積極的に家づくりを楽しまれました。内装のこだわりや大変だったことなどについて、リノベーションコーディネートから設計までトータルで担当をした關(せき)と共にお話を伺いました。
關(担当):おふたりとも版画をされるんです。それもあってモルタルの床を希望されていたのですよね。
ー ご自宅でも作品づくりをされるのですか?
ご主人:ここに引っ越してからはまだやっていませんが、もう少し余裕ができたらつくりたいですね。版画だけじゃなくてDIYをするにも作業がしやすいかなと思ってモルタルを希望しました。
奥様:ちょっとくらい傷がついても気にならないですし、掃除もしやすいです。
ー モルタルの床って寒さはいかがですか?(取材は1月)
ご主人:裸足で歩くとさすがにきついですが、シューズ型のスリッパを履いているとすごく暖かいので全然気になりません。
奥様:逆に、夏の間は裸足で過ごすのが気持ちいいです。
ご主人:そう考えると、暖かい時期の半年間はカーペットやフローリング以上に快適に過ごせますね。
ー TVの下の台も同じモルタルですか?
關:はい、床と一緒に塗ったのですが、この台はトイレの配管を通している出っ張りを利用しています。天井をなるべく高くするために床を上げないご要望だったので、どこに配管を回すのかは悩んだ部分でした。F様のご意向だった「作り込みすぎない」「デザインしすぎない」ということを意識しながら、できるだけ自然に美しく見えるような設計を心がけました。
奥様:自然な雰囲気に仕上げていただきましたし、この出っ張りのおかげで、新たにTV台を作らなくて済みましたし重宝しています。
ご主人:TVも壁付けにしてすっきりとさせました。可動式なので壁沿いのテーブルに座って食事をする時は、向きを変えて使えるのも便利です。
關:モルタルの床というと躯体をそのまま見せるタイプが多いですが、この部屋は解体してみるとそのまま使える状態ではなかったので、もう一度モルタルを打ち直すという、もはや住居というよりも店舗に近いことをしています。実は、何気なく見えて通常はできないようなことをやっていて。キッチンやトイレは配管自体が老朽化していたので、マンションと協議をしたうえで許可をもらい、共用配管へのつなぎ込みの位置を変えつつ配管自体を新しくしています。
ご主人:水周りを取り変える費用がプラスでかかってしまいましたが、納得して住みたいという思いがあったので、結局箱だけ残してすべてを変えました。
關:私たちにとっても珍しい事例でした。
ご主人:それもあって家探し1年、リノベ1年の2年がかりになりました。
關:管理会社との協議があったり、許可が下りるまでに時間がかったりとイレギュラーなことが多かったですよね。
ご主人:実際にリノベをして思ったのは、見た目をきれいにするのはそんなに難しくないんだなと。見える部分はネットや本にたくさん情報があるので「こんな感じにしたい」と言えますが、いざリノベをすると、配管や構造など見えない部分との兼ね合いで「できること」と「できないこと」が出てきたので、そのあたりをEcoDecoさんに調整してもらえたのはよかったです。モルタルの床も、解体して剥がしてみたら想定した状態とは違ったので軌道修正は必要でしたが、おおむね希望どおりの仕上がりになりました。
▷トイレはアクセントカラーとしてグレー系の薄いパープルを選びました。
▷ベッドルームの引き戸を引き込むとリビング側と繋がります。壁は全体的に小町鼠という淡い日本の伝統色を採用しています。
奥様:悔やんでいることを強いて言うなら、あともう少し広ければ住宅ローン控除の申請ができたことですかね。
關:PS(パイプスペース)などが大きい関係で、登記上の面積がわずかに50平米に満たなかったんですよね。
ご主人:それを理由にこの物件をあきらめるのは考えられなかったし、仕方がないと思っています。ただ、もし機会があれば今回の反省点を踏まえてもう一度リノベをしてみたいなという思いもあります。
奥様:引っ越しの苦労を思い出すと、私はまだここでゆっくりしたいなぁ(笑)。
▷もともとはガス給湯器があった空きスペースに引き出し式のパントリーを設けています。下段には酸素ボンベ専用の収納スペース。
ー お引っ越し、どのあたりが大変だったのですか?
奥様:以前住んでいた家での荷造りが一番大変でした。普通のゴミ出しでは捨てられないようなものもあって、最終的には廃品回収の方に依頼もしました。
ご主人:酸素ボンベは結局捨てずに持ってきたよね。
ー 酸素ボンベですか!?
ご主人:以前ガラス工芸で使っていた工業用酸素ボンベがあったのですが、また使うかもしれないからとパントリーの横に専用スペースを作ってもらいました。
奥様:DIYでパントリーを作る動画を見て真似したいなと思っていたら、ちょうどいいスペースを見つけたので、パントリーと一緒に作ってもらったんです。
ー パントリーは高さがあって収納力がありそうですね。
奥様:実は、今回のリノベで私自身は収納のことを一番に考えていました。昔からモノを整理して納め直すことが好きで、きれいに整理できた時の達成感がたまらないです。
ご主人:収納に対する情熱はすごいよね!おかげですっきりと収納できましたし、まだ余裕もあるくらいです。以前は貸し倉庫を借りていたほどモノが多かったのですが、先日ついに解約できました。
ー 収納についてどのようなことを考えられたのですか?
奥様:今ある持ち物をすべて洗い出して、前の家のどこに何があって、新しい家のこのスペースにはこれとこれを入れて……と絵を描きながらひとつひとつ考えていきました。
關:奥様のその熱量が詰まっているのが、寝室のクローゼットですよね。
ご主人:寝室はバックヤードというイメージでつくりました。入り口の扉を締めることで、寝室側のプライベートスペースとLDK側のパブリックスペースを完全に分けられるようにしています。
ー なるほど。収納はすべてオープンなんですね。
ご主人:壁を取り付ける案もありましたが、予算面も考慮してオープンタイプにしました。ほこりが気になるかもしれないと懸念していましたが、ルンバが床のほこりを取ってくれるからか、ほとんど気になったことがありません。ルンバは専用の置き場所もつくって毎日タイマーで自動運転しているのですが、いつでも床が清潔なだけじゃなくて、クローゼットにもほこりが舞わないという相乗効果もありましたね。
ー 無印良品の収納ボックスは引っ越し後に買い足されたのですか?
ご主人:はい、クローゼットは無印良品の収納ボックスの規格を考慮して作っています。
奥様:無印良品なら廃番になることも少ないですから、買い足した時にもきれいに収まるかなと思っています。
ー 奥様のこだわりは収納ということですが、ご主人のこだわりは?
ご主人:全体的なイメージですね。關さんとそのイメージを共有するために私も絵を描きました。
關:デスク上の本棚のイメージ図をいただいた時、実際に図面に落としてもぴったりとスケール感があっていたのには驚きました。
ご主人:キッチンも思っていたとおりの仕上がりになりましたし、頭の中のイメージを伝える作業はとても楽しかったです。
ー どんなイメージを描いていらしたのですか?
ご主人:あるものはあるものとして自然に見せたかったので、結果的にはインダストリアルな雰囲気かもしれません。特にキッチンに関しては、ふたりとも料理をするので、それなりの広さは欲しい反面、コンパクトにしたいとリクエストしました。
奥様:一番時間をかけて作ったのがキッチンでしたね。水道の位置なども微妙な調整をして何度もレイアウトを変えました。
ご主人:キッチンの角にPSがあるので思うように排水を通せないとか、コンロの位置を考えると換気扇はここに入れたいとか、ほとんどテトリスでした(笑)。
奥様:シンクのサイズは限界まで大きくしてもらいつつ、冷蔵庫もきちんと収まるようにしてあったり、無駄な動きがなく作業できるところが気に入っています。
ご主人:せっかく造作で作るならと、身長の高い私たち夫婦に合わせて、作業台の高さを通常よりも5cmあげて90cmにしたのもこだわりです。
ー 5cmでずいぶん変わりますか?
ご主人:作業をするのが楽ですね。洗面台も同じように高さを上げてもらいました。シンク上の棚や水切りかごは業務用のステンレス製を使っています。
ー 独立型の作業台は既製品ですか?
ご主人:はい、これも業務用ですね。先日、友人を招いてホームパーティをした際は、最初はテーブルを出して飲み食いしていたのですが、最終的にはこの作業台の距離感がちょうど良くて、皆で立ち飲み状態になっていました。もちろん収納スペースとしても使い勝手がいいです。
ー ビルトインのガスオーブンも良いですね。
奥様:「火力の強いガスオーブンがほしい!」という夫のリクエストです。
ご主人:海外の料理番組を見ていると、だいたい最後にオーブンに入れるんですよ(笑)。
奥様:海外ドラマを見ていても、家に人を招いた時はだいたいオーブン料理だもんね(笑)。実際かなり活用しています。
ご主人:具材を切ってオーブンに入れておくだけなので楽なんですよ。出来上がるまではほったらかしで別のこともできますし、楽をするための調理器具だと捉えています。
▷インタビュー中のご夫妻とリノベーションコーディネトと設計を担当した關(せき)。
ー はっきりとしたご要望がおありだったという印象ですが、リノベのきっかけは?
ご主人:3年くらい前、当時同棲中だった妻の転勤が決まったのをきっかけに、賃貸に住み続けるのはやめ、結婚して家を買おうと決めました。その時は別のリノベ会社さんに相談したのですが、結局契約には至りませんでした。そこから1年くらい空白の時間があって、ふたたびリノベを考えようとネットをチェックしていた時に、EcoDecoさんのホームページを見つけました。私たちが思い描いている部屋のイメージに近い施工事例が多かったのと、オフィスが以前の住まいから近かったので、相談してみようかと。
ー 思い描いていたイメージとは?
ご主人:できるかぎり建物のベースを活かした自然な雰囲気にしたいと考えていました。はじめに不動産仲介と設計の両方を担当していただいた關(せき)さんに相談した時も、「自分たちでどんどん作り込みたいのでシンプルな箱のような部屋にしたい」とお願いしました。
奥様:100%完成した状態での引き渡しではなくて良くて、むしろ余白を残してもらったほうがいいです、と。後々自分たちで作り足すことができるのも持ち家の良さなので。
ー 物件探しからお手伝いさせていただいたのですよね。
ご主人:そうですね、なかなか物件がなくて關さんには大変な思いをさせてしまいました(笑)。
關:そんなことはありませんよ(笑)!ただ、エリアやご要望が明確だったのは探しやすかったですが、売りに出る物件自体が少ないエリアなので、張り付いてチェックして、いい物件があるとすぐにご連絡していました。
ー どんなご要望があったのですか?
ご主人:以前、隣町の幡ヶ谷に住んでいて住みやすかったので、幡ヶ谷近辺が第一希望でした。でも、本当になかなかいい物件が出てこなくて、少しエリアを広げて今の参宮橋あたりまでを視野に入れて探していました。
奥様:北参道のあたりも一度内見に行ったのですが、商店街やスーパーがあまりなくてピンときませんでした。このエリアってスーパーもいくつもあって生活がしやすいですし、都内のどこへ行くにもアクセスが良くて転勤の多い私には便利なんです。
ご主人:土地勘もあるし、かかりつけの歯医者や整体にも変わらずに通えるので、やっぱり生活圏を変えずに済むこのエリアがいいねと。あとは、当初からモルタルの床にしたいと考えていたので、管理規約でNGになっているところは避けようとも話もしていました。
奥様:幡ヶ谷と初台の間にも気に入った物件があったのですが、カーペット敷きが必須項目だったのであきらめたこともありましたね。
ー ご自宅のどこがお気に入りですか?
奥様:この部屋に決めた理由のひとつがバルコニーからの視界の抜け感で、都心なのに建物の迫ってくる感じがしないところがお気に入りです。
ご主人:ここは最上階ではありませんが、上階の外壁がセットバックしているので空間が広く感じられますし日中もまぶしくないんですよ。ソファに座ってTVを見ながらゴロゴロしていると気持ちいいです。
奥様:私は洗面台も気に入っています。洗面ボウルの位置を高くしたので顔も洗いやすいですし、引っ越し後、洗濯機の上に自分たちで棚を取り付けてスピーカーを置いたので、音楽やラジオを聴きながらお風呂に入ったり朝の身支度ができるので。
▷浴室と寝室の間には室内で唯一の段差があり、可動式のステップには照明も取り付けています。
▷タイル貼りの浴室。窓の外は共用廊下のため、DIYで目隠しを追加したそう。
ご主人:棚板は収納量を増やすため、追加。木口テープを貼って、既存の棚に合わせました。 住みながらいろいろとカスタムできるのもリノベの楽しさですね。
ー 浴室は造作で作られたのですよね。
奥様:造作のほうがスペースを無駄なく使えるかなと思って。
ご主人:窓を入れたかったのもあって造作にしました。タイルは、サブウェイタイルに近いタイプで、長方形の他、角等に配置する役物と言われる種類が豊富なものを選びました。角もタイルの小口を見せずに貼ることができて、仕上がりがとても美しく気にいっています。
ー 出窓も素敵ですね。
奥様:もともと部屋だった場所を浴室にしているので窓を設けられました。
ご主人:曇りガラスではありますが廊下に面している窓なので、目隠しにDIYで外側から樹脂のプレートを取り付けました。幡ヶ谷に住んでいた頃は、休日は二人でランニングをして、走った後はふたりで銭湯に行くのがルーティンだったのですが、ここは近所に銭湯があまりなくて…。代わりにいい浴室をつくったので、銭湯に行かずとものんびりお風呂に入れてうれしいです。
奥様:お風呂のあと、夕食を食べてソファでダラダラしているうちに休日が終わってしまいます(笑)。
ー ご自宅で過ごすことが増えましたか?
奥様:そうしたい気持ちとは裏腹に、今仕事が忙しくてなかなか難しくて。
ー 今後はどんな家にしていきたいですか?
ご主人:こまごまとやりたいことはありますが、まずはガーデニングをしたいですね。
奥様:植物を育てたいね。私はここのところ繁忙期が続いているので、家で何もせずただただのんびりと過ごしたいです(笑)。
収納の棚板を増やしたりなど、当初の宣言どおり、引越し後も積極的におふたりでDIYをしていらしたF様。取材中もとても仲睦まじく、おふたりがここでの暮らしを心から楽しんでいらっしゃることが伝わってきました。
様々なお話を伺う中で、お二人ならではの感性だなと感じるエピソードが多くあり、お二人に似合う住まいになるようなご提案を行いたいと思いながら、物件探しから設計まで担当させていただきました。
購入された物件は築年数が経っており、建物の立地や雰囲気などの良い面と合わせて、古い建物特有の設備の老朽化という課題もありましたが、お二人に技術的なことなどに対してご理解をいただき、マンション側と協議を重ねて、通常では行うことのできない排水管や排気ダクトの共有部分へのつなぎ込み位置の変更を実現することができました。
このことは、住まいの快適性や安心感を高めるだけでなく、プランの可能性を広げることにもつながり、暮らし方をシミュレーションしながらじっくりとプラン検討を重ねた結果、お二人に家で過ごしたいと思っていただけるような住まいになったのだと思います。
これからは、お二人が暮らしていく中でどのように住まいに作り足し、どのような住まいを作りあげていかれるのかとても楽しみです。
不動産探しから施工まで、リノベーションに関するあらゆるご相談に、幅広くお答えします。リノベーションコーディネーターが無料個別相談会を行っていますので、お気軽にご予約下さい。まずは、じっくりとお話ししてみませんか。
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