ーインナーテラス、書斎、そして猫ー
二人暮らし/71〜80㎡
角部屋をフルリノベされ、どのスペースにも日差しがたっぷりと差し込む明るい部屋にお住まいのM様ご夫妻。希望エリアとは違ったものの、駅に降りた時からインスピレーションを感じ即決だったという家探しから、リノベーションの経緯、現在の暮らしについて伺いました。
エリアを絞っていなかったので、一緒にいろいろな街へ内見に行き、20件ほど内見して出会ったのがこの家です。鷺沼にはまったく土地勘もなかったので正直ピンときていなかったんですが、来てみると街も部屋も気に入ってしまいました。単純に条件に合うかだけじゃないのが、家探しのおもしろいところですよね。
ー玄関からすぐに書斎へとつながるのがユニークですね。
ご主人:玄関に入ってすぐに広がるこの光景が、家の中で一番気に入っています。
奥様:玄関ドアを開けるたびにテンションが上がるよね。
ご主人:家の奥に書斎を作ると、なんだか古本屋のような暗い雰囲気になってしまいそうだったので、いっそ風通しの良い場所にしました。休日に時間がある時は「ああでもない」「こうでもない」と本を並べ替えて楽しんだりもしています。
▷玄関から書斎へと抜けるこの眺めがご夫婦ともに家の中で一番のお気に入り
奥様:二人とも本は所有したい派なので、図書館で借りたり売ったりもせず、どんどん買っちゃうんです。今空いているスペースもゆくゆくは本で埋まっていく気がします。
ー本が増えることを見越しての収納量なんですね。
奥様:はい。お互い本やモノが好きなので、家づくりのポイントとして「増える前提で収納はたっぷり」というのはありました。こまごましたモノは全部隠せるように、扉の付いた納戸や棚も作っていただきました。
ご主人:あまり収納家具を置かなくて済むようにしてもらいました。
ー「隠す」と「見せる」のバランスがいいですね。
▷本棚にキャスターがついた“動く扉”。キッチンへと続いている
▷キッチンは造作。2人で立ちやすい広めの通路幅。壁のタイルはクラフト感があるものを採用
奥様:実はここの本棚は扉になっているんですよ。子供の頃から『アンネの日記』が好きで、以前「アンネの隠れ家みたいな本棚の扉を作るのはどうかな?」と主人に提案したことがあって。そのことをずっと覚えていてくれたみたいで、書斎からキッチンに抜けるドアを作る話をしていた時に「アンネの扉を作ったらいいじゃん!」と言ってくれたんです。アンネの部屋と同じように押して開けるのが理想でしたが、スペース的に難しかったので引き戸にして作っていただきました。
ーキッチン側から見ると普通の扉なんですね!
奥様:この扉はすごく気に入っていて、今でも開けたり閉じたりしてはニヤニヤしていますし、友人が遊びに来ると必ず案内しちゃいます(笑)。
▷ご主人がお気に入りだという墨モルタル。美しい色ツヤが出て、いい味です!
ご主人:土間は墨モルタルにしました。夏は涼しくて気持ちいいですね。逆に冬は寒いかなと心配していましたが、実際にはさほど寒くなかったです。よく歩く場所はだんだん光沢が出てきていい感じになってきました。
(設計担当)岡野:広い土間にしたので大きなヒビ割れが心配でしたが、1年経ってもヒビが入っていなくて安心しました。モルタルは施工時に水を使うので、施工時期や天気によって乾く時間に差があるのですが、その乾燥時間によって模様の出方が変わるんですよ。M様の土間も濃淡の模様が出てて良い雰囲気になってると思います。
ご主人:どれくらい墨を入れるか、いくつもサンプルを作ってもらいましたよね。岡野さんや工務店の方と、その場で相談しながら工事を進めていくのが楽しかったです。最初からやりたいことが明確なほうがラクなのかもしれませんが、私の場合は、DIYも含めてプロセスそのものが楽しかったですね。家に愛着が湧きました。
奥様:「プロセスが楽しかった」というのは私も同感です。我々だけではまったく完成図が描けていなかったのに、岡野さんと会話を重ねるうちに、家ができていくのが楽しかったです。現場確認では「こんな細かいところまで全部自分たちで決められるんだ!」とびっくりするくらい、細かく調整できたのもおもしろかったですね。
岡野:キッチンカウンター横の収納上部のスペースをどうするか?とか、現場で変更することはぽろぽろありましたよね。
ご主人:はい。今はフリースペースになっている部屋の天井近くに、明かり取りの窓を作ったのも最後の最後でしたよね。壁ができた後で「これって開けられますか?」と相談したのを覚えています。ここは唯一、外に面していない部屋でしたが、ここに窓があると自然光が入ってくるので明るくなりました。
ー岡野とは物件探しから一緒だったのですよね。
ご主人:そうですね、エリアを絞っていなかったので、一緒にいろいろな街へ内見に行きました。
奥様:申し訳ないくらい行ったよね。20軒くらいかな。実は、この部屋を最初に岡野さんから紹介していただいた時、鷺沼にはまったく土地勘もなかったので正直ピンときていなかったんです。
ご主人:お互いの通勤経路からも遠かったですし、まさか自分たちが田園都市線沿線に住むとは思ってもいませんでした。
奥様:なのに「いい!」って思っちゃったんです。
ーどのあたりに惹かれたのですか?
ご主人:三方向に窓があって、入った瞬間に風通しがよかったのかなぁ。あと、低層階だけど視界の邪魔になるものがなかったこともよかったし。うーん。……というか、取材でそんなことを言われても困るとは思うのですが、ひとことで言うとフィーリングなんです(笑)。僕は何事も理詰めで考える方なのですが、妻はほぼフィーリングで決めるタイプ。内見した中にはもっと条件に合う物件もありましたが、なかなか「ここ!」とはならなくて。条件だけ合っていても「なんか違うな」と思いながら住んでも仕方ないですしね。
奥様:はっきりと言葉にはしづらいんですが、最寄り駅に着いた時から駅の雰囲気が悪くないなと思ったんですよね。そこから並木路を歩いていると、周りに大きな建物もなくて空が広くて、緑が綺麗で、どんどんテンションが上がってきて。で、この部屋に入ったら、もう「ここだ!」って感じになってました(笑)。
ー単純に条件に合うかだけじゃないのが、家探しのおもしろいところですよね。
ー先ほどリノベのプロセスが楽しかったとおっしゃっていましたが、好みのテイストやイメージはありましたか?
ご主人:リノベをするってことは決めていたものの「広いリビングに開放的なキッチンにしたい」くらいしかイメージがなくて、ヒアリングシートも埋まらなかったくらい、具体的なイメージはありませんでした。
奥様:家全体のテーマとか希望の雰囲気は一切なかったよね。この前、最初に二人でアイデアを出し合った時のメモが出てきたのですが、「棚がいっぱい欲しい」「かわいいタイルを使いたい」「テラスを作りたい」くらいしか書いていませんでした。
▷躯体表しにした天井は南行徳の事例の壁を参考にしたそう。たしかに似ています!
ご主人:岡野さんとの初回の打ち合わせで、たくさん事例を見せてもらって。それらを見ながら「この事例のこれ」「こっちの事例のここ」と話すことで、少しずつ希望を洗い出すことができました。リビングの天井の躯体表しは、南行徳の事例の壁を参考にしたんですよ。
奥様:会話の中で岡野さんがいろいろと引き出してくれたおかげで、自分たちがどういう家に住みたいのかが具体的になって、優先順位がはっきりしていった気がします。
岡野:設計を進める上で必要な基本的な確認が多かったですが、、M様がそれを膨らませてくださったんですよね。僕が骨を組み立てて、お二人がそこに肉付けしていくという感じでした。どのお宅もそうですが、どんな家具や小物を置くのかは、お客様に委ねることになるので、その方自身で生活シーンをイメージしてもらえるように心がけています。私が見ているのは引き渡し時が最後なので、1年点検でお邪魔して「あ、こうなったんだ!」と驚くことは多いです。M様からも「こういうサイズのダイニングテーブルを置きたいです」とは伺っていましたが、細かな雰囲気や色までは伺っていなかったので、今日こうして拝見して、設計時の私の想像を超えてくださっている!と感激しました。
ご主人:そう言っていただけるとうれしいです。
奥様:家づくりをする中で、夫婦でそれぞれ得意なことが違うというのを発見できたのも楽しかったです。私は図面を見ても頭の中で再現するのが苦手なので、設計は完全に主人が主導。反対に、壁やタイルの色を決める段階になると、主人が「全然わからない」と言うので私が決めていきました。
ご主人:そうだね。「ここはタイルにしよう」というところまでは僕が選んで、「じゃあどのタイルにするか」は妻が決めるという流れでした。
▷流山の事例(*)でロープを下げているのを見てハンモックをつけることを思いついたそう
▷インナーテラスには浴室につながる室内窓を設けた。タイル敷きの床には床暖房も設置
ーインナーテラスのタイルもとても素敵ですね。
ご主人:床暖房にしてあるので、冬場も暖かいんですよ。「お風呂に窓をつけたい」というのは最初からリクエストしていたことの一つだったので、浴室に面した壁には、窓をつけてもらいました。
奥様:物件を見ている時も毎回浴室の場所は確認していたよね。
ご主人:元々浴室があった場所に設けるプランもありましたが、それだとつまらない。今のキッチンの位置にすると、窓はあるけれど家全体の風通しが悪くなるし、各部屋が独立してしまう。そうなると、今の浴室の位置がベストなのですが、窓がなくなるのがネックで…。それに悩んでいたら、岡野さんが「窓をつけたい理由が明るさだったら、バルコニーからの光を利用して、室内窓をつけるのはどうですか?」と提案してくださったんです。
ーなるほど。実際に室内窓のある浴室はいかがですか?
奥様:明るくていいですよ。主人は休日の朝風呂率が高くなりました(笑)。
ご主人:計画当初は、窓から何か景色が見えたほうがいいかなとも思っていましたが「明るい」というだけで全然違いますね。朝風呂も気持ちいいですし、お風呂上がりにサンルームのハンモックでくつろぐのも、すごく気持ちいいです。
奥様:いつの間にか寝ちゃってる時もあるよね。
ー最高の休日ですね!
ー引っ越し後に猫も飼い始めたのですよね。
奥様:家を探している時は猫を飼うことは全然考えてなかったんです。
ご主人:引っ越してすぐ、まだ本を入れていなくて棚が空いてた時に「キャットタワーみたいだね」という話から始まったんだよね。
奥様:以前はキャラクターモノとか好きじゃなかったのに、だんだん猫をモチーフにした小物が増えてきました(笑)。
ー他に暮らしの変化はありましたか?
ご主人:キッチンが広くなったおかげで、特に僕のほうが台所に立つ時間が増えました。
奥様:カレーづくりが趣味なので、休日はよくカレーを作ってくれます。
ご主人:リノベを始める直前に、夫婦でインド旅行をしたのがきっかけでインドカレーにハマっちゃって。レシピ本を参考にしたり、食べ歩いたりして、独自のアレンジで作っています。
奥様:どんどん腕が上がっているんですよ。
▷冷蔵庫に貼られたリアルなナンのマグネット。本物のナンを固めたものなのだそうで、カレー愛を感じます
ー奥様はいかがですか。
奥様:家にいる時間の「長さ」は変わりませんが、「質」が変わりました。以前住んでいた家も風通しは悪くなかったし、それなりに自分たちの好きなモノを置いていましたが、「この床がなあ…」とか、細かいところで気になる部分はどうしてもあって。それが今は、目に入るモノ全部が自分たちで選んでいるから満足度が全然違います。目に入るモノ全部が好きなモノということが、とても幸せです。
▷寝室で読書を楽しめるよう、それぞれの枕元にはホテルライクなベッドランプを
「テーマも具体的なイメージもなかった」というお話が信じられないほど、お二人のセンスが存分に発揮されたお住まい。特にアンネの日記にヒントを得たという引き戸式の本棚があまりにも素敵で、取材に伺った日の夜、夢を見てしまいました。ところで、この日の唯一の心残りは飼い猫の「おかず」と「ごはん」。突然の私たちの往訪に驚かせてしまったようで、ほとんどカメラの前に姿を見せてくれず…。が、昼食時にはお腹を空かせたのか、餌につられて少し顔を覗かせてくれ「名は体を表す」な2匹に和ませてもらいました。
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リノベーションの設計で心がけていることは、実際に生活する施主の方にいろいろイメージしてもらう事です。何をどこに?や、いつ何を?など設計側では捉えられない部分をイメージしていただくことで、その方にフィットした住まいができあがるのだと思います。またそれは、その方自身もまだ住んだ事のない家の事なので、「確認する」ではなく「イメージする」と表現した方が適していると思いますが、設計の打合せをじっくり重ねることで、イメージが積み重なっていき、その人らしい「暮らしが見つかる」のだと感じています。まさしく「アンネの扉」のように。設計の打合せを通して、新たなビジョンも見えてくるので、ご自身の想いに向き合っていただく事が、リノベーションするという事なのかもしれません。
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