ファミリー/81㎡以上
「自分たちの思い描いている暮らしを経験してしまったら、もう戻れない」というのは、インタビュー中の奥様の言葉。2020年に青山の中古マンションをリノベしてから、根津のアトリエ、そして3軒目の今回は根津の一軒家のリノベーションを依頼していただきました。これまでのご経験を踏まえてこだわったポイントや現在の暮らしについて伺いました。
*屋上階は省略しています
―以前の青山のお住まいもすごく素敵でしたが、なぜ戸建てにお引越しを?
奥様:青山のマンションは戸数が少なかったこともあり、年々、管理費や修繕積立金が値上がりしていました。「本当に金額に見合った恩恵を受けているかな?」という思いも湧いてきて、それなら自分たちで責任を持って、必要な時に必要な金額を用意する戸建てのほうがいいかもと考えるようになったんです。それと、青山ではアトリエがないこともネックでした。
▷2020年に購入してリノベーションした1 軒目の住まい。開放的な間取りでした
―奥様が副業でされている陶芸のアトリエですか?
奥様:ええ。電気窯を使うので、電圧の条件が必須なこともあり良い物件がなかなか見つからなくて。「この家で共存するしかない!」とベランダに窯を置いたり、一時はリビングにベッドを移動させて寝室をアトリエにしたりもしていました。なので、後でご紹介しますが、この近くにアトリエを設けられたことはすごく助かりました。
―こちらのご自宅よりもアトリエのほうが先だったのですね。
奥様:はい。ただ、青山にいた頃は子どもが保育園に入園する前だったので、シッターさんに預けて根津まで通うのが大変でした。それで、このアトリエにも、私の実家にも近い根津エリアで物件を探し始めました。
ご主人:私は大学受験で上京して以来、大学もオフィスもずっと千代田線沿線なんです。青山に住んでいた頃も表参道駅を使っていたので、千代田線の通っている根津は慣れ親しんだ街でした。
―物件はご自身で探されたのですよね?
奥様:はい。間取りを見るのが好きで常に物件情報は見ていて。その中でたまに「これは!」と思う物件があれば二人で見に行く中でこの家に出合い、購入を決めたタイミングで齋藤さんにご相談しました。
―アトリエのリノベも含めると3軒目。考え方ややりたいことに変化はありましたか?
奥様:今振り返ると、1軒目の青山はいろいろなことを欲張っていましたね(笑)。
ご主人:素材選びやこだわるポイントの違いは明確にあったと思います。例えばフローリング材、青山は浮造りのある厚い材を選んで、DIYでオイル塗装をしましたけど、今回はもう少し簡易にしました。
▷子ども部屋の棚は既存利用。扉を外しておもちゃを収納したりアートを飾ったりするスペースにしています
奥様:すごく気に入っていたのですが、オイル塗装は、シミになる箇所もあって、お手入れが大変だということを実感したんです。そうすると今の暮らしにはもっと実用的な方がいいなと思い、今回はウレタン塗装品フローリングを選びました。
ご主人:さっと拭くだけで汚れを落とせるので子どもが汚しても気にならなくて良いですよ。
齋藤:1軒目でのご経験を元に「ここはこうだったから、こうします」とご判断されることもいろいろとありましたね。
▷キッチン奥のパントリーから見たキッチン。写真右手前の引き戸は食器収納棚
▷引っ越し後、ガス乾燥機を導入。短時間で乾くのでお子さんの保育園での洗濯物も気兼ねなく洗濯でき、「最高!」だそうです
奥様:特にキッチンですよね。1軒目を依頼した当時は二人とも仕事が激務で、自宅で食事をすることがほとんどなかったので、キッチンは見た目を優先していました。ところがコロナ禍に入って自宅で食事をことが増えて、いろいろと不都合や不便さを感じて。
齋藤:以前は既製品のキッチンを利用して予算を抑える選択をされましたが、今回は使い勝手やメンテナンス性を考慮して「キッチンの優先順位は下げるべきではない」と判断されて造作としましたね。
ご主人:ベースは造作にしつつ、予算を抑えるためにガスコンロやレンジフードは既存利用しています。ウォールキャビネットは昇降式で水切りがついているのがすごく便利で、日々活用しています。
奥様:シンクの水洗も以前は固定式で不便だったので、今回はホース式で可動できるものを選びました。あと、以前もキッチンにタイルを貼っていて、汚れをさっと拭けてよかったものの、壁紙の辺りの汚れは取りづらかったので、今回はより広範囲にタイルを貼りました。収納も増えて、回遊もできるようになったので、機能性はすごく良くなりました。キッチン全体の見え方も、既存利用しつつ色や素材感を合わせていただいたので一体感があって気に入っています。
▷リビングダイニングの床はダークグレーのタイル。タイルの下は既存の床暖房利用。思いのほか冬場も暖かくて快適だそう
―なるほど。優先順位や判断基準が変化したのですね。
奥様:それと青山でのリノベを経験したことで、「住んでいるうちに馴染んでくる」ことが分かったことも大きな変化かもしれません。たとえば、私たちは部屋の明るさを重視するのですが、ワイドバルコニーで明るかった青山に比べると、ここは暗くて。設計の相談中も齋藤さんに「不安です」とずっと伝えていました。でも、実際に住んでみると「こんなもんか」と意外と気にならなくて。
ご主人:暗さを解消できるようガラスを増やしたり、階段に抜けを作ってもらったり工夫はしていますが、青山に比べると外の陽が差込む範囲はだいぶ少ない。でも、気にならないんですよね。こだわりたいこともありますし、青山でリノベの楽しさを知ったので、既存のまま住むことは考えていませんでしたが、フルリノベをしてやりたいことのすべてをやり切るというよりは、優先順位がわかってきた感じがします。
▷3Fの階段から2F北側のこども部屋へつながる室内窓は自然光を家中に取り込む要素になっています
▷3階の書斎は、床以外は既存利用で手を加えていません。以前はダイニングテーブルとして使っていたテーブルを夫婦の在宅ワーク用に転用
奥様:住みやすい家のあり方は家族構成や状況によって変化することも気づきでした。青山ではとにかく開放感を求めていたので、壁を減らしてワンルームに近い間取りにしました。それはそれでとても気に入っていましたが、在宅ワークが始まると夫婦でそれぞれのオンラインミーティングをするのが難しかったり、子どもが生まれるとカーテンを閉めても眩しいのでお昼寝をさせづらかったり。その辺りを踏まえて、「今」の暮らしに合わせた間取りや設備を選択できたと思います。
ご主人:この根津の住まいでは、積極的に壁や扉でスペースを区切っています。特に3階は寝室、クローゼット、ワークスペースとしっかりと分けました。そうすることで部屋数が増えたぶん、逆に広さを感じるというか、部屋の用途が広がって便利になったんです。
▷引っ越し後購入した唯一の家具がベッド。スペースの都合で引き出し式の収納のベッドが入らず、跳ね上げ式収納のベッドに変えました
奥様:ここが初めてのリノベだったら、なるべく区切らず大きなワンルームにしていたかもしれないです。
ご主人:その辺りは青山での経験があったからこその判断ですね。子どももいろいろな遊び方ができて楽しんでいると思います。キッチンの回遊できる通路はいつも走り回って遊んでいますよ。
▷キッチン、パントリーからこども部屋は回遊できるつくりに。お子様のちょっとした遊び場にもなっています。ダイニングテーブルはHAY
▷シンボルツリーならぬシンボルステップの階段。鮮やかなイエローが家全体を明るく引き立てます
―家全体を貫くイエローの階段がすごく素敵で印象的です。
奥様:元は壁で閉じられていた階段室でした。壁をとりたいけど、どこまで開放的になるか、わかりませんでしたね。
齋藤:事前に階段廻りの詳細図はなかったので、おおよその想定で計画しながら、解体後に内容をつめていきました、既存部分との取合の処理などなかなか難しかったですよ!施工も鉄骨階段の溶接跡をサンダーで削る作業など結構大変であったと思います。
ご主人:この構造が見える感じがとても気に入っています。
齋藤:鮮やかなイエローは大山様のアイデアでしたが家を貫く良いアクセントになっていますね。
奥様:はじめは「階段はDIYで塗装しよう」と話していましたが、結果的にDIYをしたのは、3階のトイレの扉や建具のオイル塗装くらいでした。
ご主人:これだけ多くの面がある階段を自分たちで塗るのは絶対に無謀だったね(笑)
▷洗面のタイルは目地の色をグリーンがかったグレーにすることで洗練された雰囲気に
▷浴室、脱衣室からクローゼットまでがウォークスルーになっています。水回りに近いですが、湿気はほとんど気にならないそうです
―どうしてDIYを選ばなかったのですか?
ご主人:この家をリノベするよりも先に、妻がアトリエとして使っているワンルームマンションもEcoDecoさんに依頼してフルリノベしたのですが、その壁をDIY塗装したのが本当に大変で……!真夏だったのですが、妻が子どもの面倒を見ている間に、私が一人でエアコンをつけられない空間で汗だくになって塗りました。「この広さでこんなに大変なら、自宅は絶対に無理だ!」と(笑)。そうやって「できる」の「できない」の判断が効くようになったのも3軒目だからこそかもしれません。
▷屋上に上がると街並みも見え、開放感があります。天気の良い日はシーツ類を干すこともあるそうです
▷「家に入った瞬間、テンションが上がる」という玄関スペース。上り框の下によく使う靴を収納
―戸建ですとご近所との付き合い方も変わりましたか?
ご主人:商店街の会に入ったぐらいですね。
奥様:この辺りは店舗が多いのでそれほど近所付き合いはありませんが、青山のマンションと比べると、お祭りやイベントが多いので、ご近所さんの顔を覚える機会は増えました。アクアリウムで飼っているドジョウは、近所の小学校で開催された手掴みイベントで採りました。ここに住み始めてから、だんだんと「街」のことを考えるようになりましたね。
▷キッチンは家の中心で、リビングダイニングを見渡せます。リビング窓の木製ブラインドは前オーナーから引き継いだもの。既存部分も素敵に馴染んでいるのはさすが大山様のセンス
―別のエリアでも探していらしたのですね。
奥様:ワンルームのアトリエができるまでは、自宅兼アトリエにする考えもあったので、広さを求めて取手、軽井沢、三島あたりの物件も見ていました。でも、私たちにはあまりキュンと来なくて…。都心に比べるとリセールしづらいエリアだったことも、将来を考えると懸念材料でした。取手は学生時代に通っていたのでなんとなく馴染みもあったのですが、「住む」っていう目線で見ると印象が変わりました。おかげで「やっぱり私たちは都心が好きなんだ!」と私たちの優先順位が明確になりました。
ご主人:広さよりも立地を重視しよう!と。ただ、取手の物件は600平米と夢の広さでしたね。「なんでもできる!」って(笑)。
―ちなみに二拠点生活は検討されましたか?
奥様:今、多いですよね。でも住宅ローンのことを考えると私たちには難しいかなと。どちらかを賃貸にする方法もありますが、一度家を買ってしまうと賃貸はもったいなく感じてしまって。自分たちの思い描いている暮らしを経験してしまったら、もう戻れませんね。
ご主人:あと、私たちの場合、二拠点設けたとしても、そのうち移動が億劫になって結局都心のほうにずっと住んでいるような気もするのでやめました。
▷南東の窓に加え、階段室を通して屋上からの光を取り込んだ明るいリビング。ラグの上にある小さなチェアは不要になったおもちゃをチップ状にして作られたモノでオランダからの取り寄せ品
―青山のマンションの売却はどうされたのですか?
奥様:EcoDecoさんに仲介していただき、この家のローンが通ってから売却活動を始めました。私たちの希望する引っ越し時期を了承してくれることを条件に探したところ、想像していたよりも早く決まりました。気に入ってくださった方にお譲りできたのでよかったです。
ご主人:私たちもとても気に入っていた家だったので良い方にお譲りできたのはよかったです。最後に掃除をして出ていく時も二人でしみじみと「良い家だったなあ」と、しんみりしまいました。
―将来的に4軒目の可能性はありますか?
ご主人:妻の実家が近いのも助かっていますし、当分はないかなと思います。
奥様:ここに来て生活環境が整ったので私も同じ思いです。あるとしたら、階段が辛くなる老後かな。その時は表参道に戻りたいですね。昨日もいたのですが、「やっぱり楽しい!」って(笑)。この辺りは飲食店が多いのがすごく良いですが、表参道は歩いているだけで楽しいです。
ご主人:でも、その前に1階を自分たちで何かやりたいですね。
奥様:そうだね! その時はまた齋藤さんにお願いします。そうすると結局ここから離れないかもしれません。
※ご自宅での取材の後、ご自宅から徒歩2分の距離にある奥様のアトリエにもお邪魔しました。
ご主人:岐阜に住む私の両親が、東京に遊びにきた時のホテル代わりにしようとワンルームマンションを購入したのですが、頻繁に来るわけでもないので有効活用しようと、妻のアトリエも兼ねたスペースになっています。
奥様:とてもありがたいです!
ンションを購入したのですが、頻繁に来るわけでもないので有効活用しようと、妻のアトリエも兼ねたスペースになっています。
▷小上がりの下部に設けた収納スペースにはDIYで扉をつけられました
ご主人:18平米とコンパクトなので、風呂は設けず、銭湯利用をしていましたね。その後、私たちがすぐ近くに戸建てを購入したので、母が遊びにきた時も、私たちの家で入浴だけしてアトリエに宿泊したり、私たちの家に泊まったりと、その時々で使い分けています。
―ではアトリエとしての利用頻度のほうが高いのですね。
奥様:そうですね、ほぼアトリエとして使っています。壁の塗装や洗面のタイルは夫が一人でDIYをしてくれました。布団も敷ける小上がりの下は収納になっています。この扉は二人で取り付けました。
―把手がかわいいですね。
▷DIYで貼り付けたタイルはご主人のDIY。水栓はバケツも洗いやすい高さに設定しています
ご主人:これは私の父が作ってくれたもので、そら豆がモチーフなんです。
奥様:作業台の上に設けたtoolboxの吊り下げ収納も気に入っています。
―前回お伺いした時は、土日はほぼ陶芸をしているとのことでしたが?
奥様:当時はそうでしたが、子どもが生まれてからは時間の使い方が変わりました。子どもを保育園に預けている平日の午前中に陶芸をしたり、仕事や家事の合間に少しだけアトリエに行ったりしています。
▷陶器製のミニカーはご主人作。引っ越し後は奥様と一緒に制作することもあるそうです
ご主人:最近は私も一緒に作っていますよ。
―ご家族で楽しまれているのですね!新たな根津での暮らしも大山さんらしさに溢れていてとても素敵です。今日はありがとうございました。
事例紹介の取材をしていると、よく「またリノベをしたい」という声を伺います。そんな「また」を実現されただけでなく、間を空けずにトータル3回!1回目のリノベでやりたかったことはすべて叶え、2回目でDIYの大変さを実感し、3回目となる今回は大山さんファミリーにとってのベストオブベストなリノベ。それぞれに個性のあるお住まいですが、いずれも大山さんのお人柄が表れたような明るくおおらかな雰囲気は一貫しているように感じました。「住むうちに馴染む」と大山さんはおっしゃっていましたが、家に命を吹き込むのは、そこで暮らす方が持っている色であり愛情なのだなとつくづく感じました。
大山様邸の画像をまとめてご覧になりたい方はこちらから(Pinterestのサイトへ移動します。)
3方建物に囲まれた都心の戸建住宅のリノベーション計画。戸建住宅では、施工面積も大きいため、フルスケルトンではなく部分リノベーションを行うケースは少なくありません。そのため、何をどこまで行うかの判断は重要です。
大山邸の計画は、2階フロアを中心に、1階の小さな玄関ホール、3階の寝室、水廻りは既存の雰囲気を一掃する方針で始まりました。途中から、屋上階までの階段廻りを一新することになり、既存との取合いや納まりなど計画・工事としては難易度が上がりましたが、雰囲気も大きく変わり、各階に解放感をつくることができました。それはこの家の特徴となったと思います。
思いを積み上げるだけでなく、冷静な判断そして、重要なことには大胆な試みを決断できたのは、これまでのリノベの経験、そして大山様ならではだと思います。これから家族の状況が変化しても、明るく軽やかに住みこなされていくと思います。
不動産探しから施工まで、リノベーションに関するあらゆるご相談に、幅広くお答えします。リノベーションコーディネーターが無料個別相談会を行っていますので、お気軽にご予約下さい。まずは、じっくりとお話ししてみませんか。
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